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神経・筋肉の病気

ウォブラー症候群

ウォブラー症候群とは

 ウォブラー症候群は後部頚髄狭窄症 Caudal cervical stenotic myelopathyなどとも呼ばれており、一般的に大型、超大型犬種や馬にみられ、頚部脊髄の圧迫病変により頚部痛、跛行、四肢麻痺などの臨床症状を引き起こす症候群です。
この症候群は、特にドーベルマンとグレートデンに多発し、その他にはセントバーナード、マスチフなどに頻発します。

病因

この症候群は歴史的に1つの症候群として呼ばれてきましたが、病態は大きく2つに分けられます。
すなわち、成長期の超大型犬種に起こる脊椎の形成異常によって第5−6−7頸椎および第1−2−3-4胸椎に起こる脊髄圧迫と、中高齢のドーベルマンなどの大型犬に認められる慢性の椎体不安定症による二次的な変化として椎体周囲の靭帯、椎間板線維輪、関節包など「骨以外」の組織が肥厚した結果、第5−6−7頸椎から第1胸椎脊髄にかけて脊髄が圧迫されるというものです。
特に成長期の超大型犬の場合には複数病変が認められる事が多い(85%)事が報告されています。(Da Costa_2012_VRU)
ウォブラー症候群という同じ名前で呼ばれているものの、これら2つの病気は全く異なるものとして考えられています。

臨床症状

初期症状の多くは頚部痛と後肢のふらつき歩行ですが、ウォブラー症候群では首の根元が障害を受ける事が多く頸部痛ははっきりとしない事も少なくありません。
頚部痛があると首を動かすのをためらい、頭をまっすぐにしたまま低い位置に保とうとします。特に中高齢のドーベルマンなどの場合には頭を高く上げと頸部痛が悪化するため、このような特徴的な姿勢を取る事が一般的です。
Two engine gaitと呼ばれる非常に特徴的な歩き方をする事が多く、典型的な症例では神経科医は歩行検査で暫定的な診断を下す事が可能です。
運動制限、ステロイド療法などにより一時的に症状が軽減する事も少なくありませんが、多くの症例で慢性進行性(時に急性進行性)の経過をたどり、患者は重度な四肢不全麻痺、歩行困難な状態へと陥ることがあります。

診断

診断には身体検査と歩行検査、そして神経学的検査が非常に重要です。
それらの検査によってこの病気を疑われた場合にはMRIが行われます。
時々MRI画像などで多少異常があっても臨床症状が無いこともあり、画像診断だけで治療方法を決める事は出来ません。

他に脊髄造影とCTを組み合わせた診断方法もありますが、ウォブラー症候群を持つ犬の脊髄造影後は痙攣発作の合併症が起こる率が増す事が複数の研究で報告されており、実施時には十分な注意が必要です。
また、two engine gaitという特徴的な歩き方は首の根元に病変部位がある場合に典型的に認められるものであり、ウォブラー症候群に限られたものではありません。

T2矢状断MRI画像:青矢印の部位(脊髄内の白い部分)が慢性脊髄障害による病変

T2矢状断MRI画像:青矢印の部位(脊髄内の白い部分)が慢性脊髄障害による病変

T2横断MRI像 (左:病変部位、 右:正常な部位)

 

病変部位 正常な部位

 

この様な両側からの骨組織増生による圧迫は若い超大型犬種に多く見られます。

治療法

治療法には、大きく分けて内科的治療と外科的治療があります。

内科的治療法

脊髄内の腫れや炎症を抑えるためにステロイド剤、安静や運動制限を行います。

手術法

腹側椎体牽引・癒合法(ピンと骨セメントを用いたもの、あるいは骨セメントのみを使用したもの、スクリューと骨セメントを用いたものなど様々)、背側椎弓切除術、椎体部分的切除・人工椎体牽引癒合装置の使用 など

内科的治療法と外科的治療法の単純比較は困難ですが、特に中高齢のドーベルマンなど大型犬に認められるタイプの疾患については様々な研究がオハイオ州立大学などで活発に行われています。実際の治療成績には様々な要因が絡んできますので解釈には注意が必要ですが、比較的大規模な研究では以下の様に手術の方が改善する傾向が強い事が示されています。しかし、悪化する危険性や中央生存期間には大きな差は認められていません。

104頭のウォブラー症候群患者に対する回顧的研究
  改善 変化無し 悪化 中央生存期間
内科的治療(67頭) 54% 27% 19% 36ヶ月
外科的治療 (37頭) 81% 3% 16% 36ヶ月

Da Costa et al_2008_Journal of American Veterinary Medical Association

まとめ

ウォブラー症候群の予後判定は難しく、一般的に慢性に悪化してきた症例、歩行不可能なほど重度の神経障害を伴う症例、複数の圧迫病変を持つ症例(特に胸部脊椎に病変が及ぶもの)などでは治療に対する反応が良くありません。この症候群に対する治療法の選択は難しく獣医神経科医によって意見が分かれることがあります。内科的治療と外科的治療の選択、あるいは外科的治療法の中での手術方法の選択は、個々の症例、神経外科医の経験、あるいはご家族のご意向を総合的に判断して行われるべきです。一つの病気に対して様々な手術方法がある状況は決して理想的とは言えず、どの手術方法も一長一短であるというのが現在の米国獣医神経科専門医に共通した見解です。術後、一過性に症状が悪化する事も約70%の症例で報告されており、歩行困難な(超)大型犬に対する術後管理は大変重労働であり、短期的・長期的予後や様々な術後合併症についてご家族に十分なご説明が行われるべきだと考えられています。