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骨・関節の病気

関節外科

関節の疾患は、関節を安定化している靭帯や腱の損傷とともに起こり、人と同様に犬や猫でも多く、場合によっては手術が必要な場合があります。
もし早期に適切な治療を受けることができなかった場合、関節を覆っている軟骨が損傷を受けます。
損傷を受けた軟骨は基本的に元に戻ることはなく、もし関節に異常な動揺や炎症が残っていた場合はさらに軟骨の損傷が進行し、痛みを伴う関節炎を引き起こします。
靭帯や腱の損傷はレントゲンに明らかに写らないため、見逃されてしまうことが大いにありますので、早期診断、早期治療が必要となります。
また、犬では成長期に起こる疾患が多いので、比較的若いうちに検査を受けることも大事です。

成長期関節疾患検査

犬にはいくつかの進行性の関節疾患があります。これらは、幼少の頃から関節の不整や緩みなどにより、徐々に関節の軟骨に傷を付け、最終的には元に戻る事の出来ない関節炎が進行します。ですから、このような病気はなるべく早期に発見し適切な治療を受ける事が重要です。当院の関節スクリーニング検査は、レントゲン検査に加えて触診検査を行い、成長期に起こる整形外科疾患を探します。

検査の内容

歩様の観察

歩行の様子を観察し、飼主様が気付かない異常がないか検査します。

整形外科検査(触診)

関節の異常はレントゲンだけでは判断出来ません。全身の骨格を整形外科的な触診を行う事により、関節の緩み、筋肉、腱などの痛み、関節の痛みの程度などを判断します。

レントゲン検査

通常は、以下の部位の撮影*を、麻酔無しで撮影します**。
大型犬 (肘関節、肩関節、股関節)
小型犬  (肘関節、肩関節、股関節、膝関節、下腿)***

*診断に必要な場合は、別途レントゲン撮影部位を増やすことがあります。
**通常は鎮静や全身麻酔は必要ありませんが、犬の安全の為に必要な場合があります。
***小型犬は一度に広範囲を撮影することができるので実際の枚数と撮影部位の数は異なります。

検査を受けるタイミング

症状がない場合

5~6ヶ月齢前後で検査を受けることを勧めします。大型犬の股関節のレントゲン検査は12ヶ月齢以降でもう一度受けることが勧められますが、肘の検査はなるべく早く行うことが重要です。

症状がある場合

症状がある場合は、速やかに検査をされる事をお勧めします。疾患によっては早期の治療が必要な場合があります。

  小型犬(10kg未満) 大型犬( 10kg以上)
対象となる年齢 6ヶ月齢前後 5ヶ月齢以上
検査内容 整形外科検査(触診)
レントゲン撮影(肘関節、肩関節、股関節、膝関節、下腿)
整形外科検査(触診)
レントゲン検査(肘関節、肩関節、股関節)

膝蓋骨内方脱臼

膝蓋骨(しつがいこつ)はいわゆる”お皿”で膝にある小さな骨です。膝蓋骨は骨盤と大腿骨から始まる大腿四頭筋に?がり、更に膝蓋靭帯で脛骨とつながっています。これらは膝を伸ばすのに重要な役割を果たしており、膝蓋骨はこれをスムーズにかつ効率的に行う為の構造です。膝蓋骨内方脱臼は、このお皿が正常な位置から内側に脱臼してしまう病態で、マルチーズ、ヨークシャテリア、チワワ、パピヨン、ポメラニアンなどの小型犬や、柴犬などの中型犬によく見られる疾患です。

症状

足を急に挙げてスキップのような歩き方をする。その後ひとりでに良くなる

膝蓋骨脱臼で最もよく気づかれる症状です。膝蓋骨が大腿骨の溝から脱臼することによって痛みや違和感で足をあげますが、しばらくすると元の位置に戻って足も正常に戻ることが多いです。このような症状は年齢とともに減少していくことが多いですが、実は膝蓋骨脱臼は良化していません。逆に脱臼を繰り返した結果、膝の軟骨がすり減り、脱臼したまま異常な位置に固定されてしまっていることが殆どです。

足がO脚気味である。足先は内側を向いている

膝蓋骨脱臼が慢性化し、通常あるべき位置よりも内側で膝蓋骨が落ち着いている状態です。この段階になると、膝蓋骨につながっている大腿四頭筋は拘縮し、膝蓋靭帯の付いている脛骨は内側に回旋します。この状態では足を急に挙げたりすることは少なくなりますが、膝を完全に伸ばさないで歩行するようになります。膝蓋骨が完全に脱臼している状態は非常に膝に負担がかかり、後に膝の十字靭帯が切れてしまう犬もいます。

検査

基本的な診断には整形外科的な触診と、レントゲン検査が必要です。整形外科的検査を行い、膝蓋骨脱臼の程度を評価し、同時に他の運動器疾患がないかを確認します。レントゲン検査は正確に行われ、骨の形状などを手術方法の決定のために詳細に評価する必要があります。CT検査は3Dで骨を再構築することができ、レントゲン検査と比較しより正確に骨の形状を評価することができます。

治療方法

外科治療

基本的には外科的治療でしか完治はしません。グレード2以上は手術の適応になります。膝蓋骨脱臼の治療には、骨の形態的な異常、周りの軟部組織の異常、筋肉の異常などを総合的に補正をしていかなければなりません。その異常の程度は様々で、手術で矯正が必要な場所、方法はそれぞれ異なります。それゆえ手術の方法は慎重な検査のもと決定しなければなりません。

  • 滑車溝形成術
  • 大腿膝蓋靭帯形成
  • 関節包リリースと縫縮
  • 脛骨結節転移術
  • 変形骨切り術
  • 脛骨抗内旋縫合

など

保存的治療

減量、滑らない床、段差の少ない環境、ボール運動の禁止などは膝蓋骨脱臼の軽減に役立ちますが、これだけでは改善しない事が殆どです。しかし外科治療と同時にこのような環境の整備を行うことは重要となります。

骨・関節の病気5 CT スキャンにより骨の形状を把握

 

前十字靭帯断裂

前十字靭帯断裂は犬の整形外科疾患の中で最も多い疾患です。多くは大型犬から中型犬に発生しますが、小型犬でも発症することがよくあります。前十字靭帯断裂は人ではスポーツ選手がよく練習や競技中に損傷を受けますが、動物では外傷よりも徐々に靭帯が変性(元に戻ることのできない変化、劣化)しロープが切れるようにダメージを受けていくことが多く見られ、多くの犬で両足の靭帯が切れてしまいます。それゆえ最近は前十字靭帯疾患とも呼ばれています。初期の段階はごく軽度の跛行、お座りが完全にできないで足を投げ出す、段差を躊躇するなどの軽い症状ですが、その症状が完治せずに続きます。この時期には前十字靭帯の線維の一部が断裂し膝関節で滑膜炎が進行していきますが、完全に診断できないことが多くあります。そしてそのうち前十字靭帯の半分ほどが断裂すると明らかな跛行を繰り返し、鎮痛消炎剤などに反応しないことが多くなります。この段階では関節の緩みが認められ関節炎が徐々に進行しています。前十字靭帯が完全に断裂すると、犬は大抵後ろ足を完全に挙上するほどの症状を出します。場合によっては膝からクリック音が聞こえ、これは半月板が損傷している可能性があります。前十字靭帯断裂の診断には、整形外科的触診による膝関節の不安定、膝関節の腫れ、関節液の貯留、レントゲン検査などの所見で総合的に判断し、最終的に関節鏡、関節切開などで直接目視する必要があります。MRIや超音波検査も診断に役立ちます。

治療方法は外科治療が第一選択です。膝の不安定性は外科手術でのみ治療することができ、早期に治療することは関節炎の進行を遅くすることができます。しかし他の疾患による二次的な十字靭帯断裂、全身状態の不安、年齢などを考慮して保存的治療やリハビリテーションでの治療を行うこともあります。

手術方法

前十字靭帯の治療方法は非常に多く、世界中で様々な治療方法が開発・研究されていますが、基本的には関節外安定化術と、脛骨骨切り術の2つに分けられます。

関節外安定化術

人の前十字靭帯断裂の治療では、関節の中の解剖的な前十字靭帯の位置に人工靭帯や筋膜などを移植して固定する”関節内法”が最も行われている方法です。これは獣医療でも行われていましたが、成功率の低さから現在は関節の外で膝を安定化させる”関節外法”で行われることが多くなりました。関節外法は比較的安価で手術手技が容易であることから、すべての手術の中でも世界中で最も行われている方法でその手技も多くあります。しかし一方で糸の緩みが早期に起こるという合併症が多いため、これに代わる多くの手術が現在も開発研究されています。当院ではなるべく成功率の高い方法を選択し、新しい素材の糸を用いています。

脛骨骨切り術201451418651.jpg

脛骨骨切り術は脛骨の角度を調節することにより膝関節にかかる筋肉の力を変化させて前十字靭帯断裂により引き起こされる脛骨の前方変位を中和し、膝を安定させるというコンセプトの治療方法です。この方法も多くの手技が開発されており現在も研究が続けられています。その中でもTPLO(脛骨高平部骨切り術)とTTA(脛骨結節前進化術)が最も多く行われている方法です。これらの手技は関節外法と比較し早期の回復が望まれ、その安定度や回復は関節外法よりも優れているとされています。当院ではTPLOを実施することが可能です。

関節炎の治療が必要です

前十字靭帯が断裂した場合、程度は様々ですが徐々に関節炎が進行します。関節炎の治療は鎮痛剤の投与、関節サプリメントの投与などがよく行われております。これらはもちろん効果があるのですが、実は体重の管理がもっとも重要です。ある報告では体重の減少は鎮痛剤の投与と同じくらい生活の質を改善したと言われています。逆に言うと、体重が重すぎる場合は関節炎の症状が悪化する可能性があります。体重過多の場合は減量プログラムをかかりつけの動物病院で作ってもらい、積極的に体重を落とす必要があります。

前十字靭帯の断裂を起こした50%前後の犬が逆の足でも断裂を起こします。これは数日から数年で起こることがありますので、同じ症状が出た時はすぐに動物病院を受診してください。

レッグ・ペルテス病

大腿骨頭虚血性壊死症とも呼ばれ、成長期の小型犬に起こる進行性の疾患です。
この疾患の原因は定かではありませんが、股関節の大腿骨側の骨の血行が阻害され壊死していく疾患です。
この疾患が発症すると徐々に痛みが強くなり、ひどい場合は元気や食欲もなくなります。
比較的診断が遅れることが多い疾患ですが、厳密な整形外科的触診、画像診断をあわせることにより早期診断が可能です。
早期に手術し早期にリハビリを開始しないと、筋肉の萎縮が重度になり回復が遅れます。
今までは、骨頭切除術という悪い部分を切除する手術しか選択肢はありませんでしたが、小型犬やネコ用の人工股関節が開発され当院でも行うことができます。

大腿骨頭切除術

大腿骨頭は股関節を形成している大腿骨の一部で、骨頭切除術はこの部分を切除する方法です。この手術はそれほど難しい手術ではありませんが、関節を取り去ってしまうため回復に時間がかかります。また関節を除去してしまうため大腿部の筋肉量が正常な足と同じ太さに回復するのは難しいでしょう。しかしレッグ・ペルテス病や股関節脱臼などで痛みのある患者ではこれを取り除くことができ、リハビリテーションを行うことにより普通の生活には支障がないくらいには回復できます。

Micro/Nano Total Hip(股関節全置換術)201451418111.jpg

人と同様に人工股関節治療を動物も受けることができます。今までは大型犬から中型犬のサイズしか利用できませんでしたが、現在ではチワワやヨークシャテリアなどのトイ犬種や猫にも合うサイズの人工関節が利用できるようになりました。この手術の利点は早期回復ができ正常とほぼ変わらないレベルにまで関節機能が回復できることです。当院では小型犬、猫の人工関節前置換術を行っております。

股関節形成不全症

股関節形成不全症は大型犬に多く、70%は遺伝的な素因があると言われていますが、環境的な要因、特に体重過多などで発症することもあります。股関節形成不全症は骨盤と大腿骨をつなぐ股関節に緩みがあり、そのため変形性関節炎(関節の軟骨が削れ炎症が起こる)を引き起こすことにより痛みが出る病気です。大抵痛みは1歳になる前に現れ、おしりを振る歩行、階段を嫌う、後ろの足幅が狭い、うさぎ跳びで走る、車に飛び乗れない、痛みで元気がなくなるなどの症状を出します。その後成長とともに症状は落ち着きますが、関節炎は進行し歳をとってからまた痛みを出すことがあります。

検査

検査は触診とレントゲン検査で行います。若い時期やある犬種では、股関節に緩みがあるにもかかわらず、レントゲン上正常な股関節に見えることがあります。またそれとは逆にレントゲン上異常でも実際には痛みを出していないこともあるため、触診を同時に行うことはこの疾患の診断をする上で非常に重要です。

治療

保存的治療

体重コントロールや、リハビリ、運動療法は股関節形成不全の患者にとって非常に有益です。多くの犬でこれらのコントロールにより正常な生活を送ることができます。しかし定期的な整形外科検査や、レントゲン検査は必要です。

外科的治療

どうしても痛みがコントロールできない、生活に支障がある症例では外科的治療が必要となります。手術は人工関節手術と骨頭切除術が最も行われている方法です。

肘関節異形成

肘関節異形成は大型犬に多く、バーニーズマウンテンドッグ、ラブラドール、ロットワイラー、ゴールデンレトリバー、セントバーナードなどの超大型犬で発症します。症状は5ヶ月齢から10ヶ月齢で発症し、軽度から重度の前肢跛行を呈します。肘関節異形成は下記に示す4つの病態があると言われており、特に内側鈎状突起の異常が最も多く見られます。これらの病態は複数が同時に発生することも多く、触診とレントゲン検査である程度の診断はできますが確定診断はCTやMRI、関節鏡などの検査が必要となります。肘関節異形成は重度の変形性関節炎を引き越すため、早期に発見し治療することが勧められます。これらの疾患は軽い症状しかない場合も多いので、好発犬種では先述した関節スクリーニング検査を5ヶ月齢以降で受けることは重要です。

内側鉤状突起異常
肘突起癒合不全
内側上腕骨顆の離断性骨軟骨症
肘関節不一致