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神経・筋肉の病気

前庭疾患

前庭疾患とは

前庭疾患とは、様々な原因で平衡感覚を失ってしまう病気全般を指します。

動物の身体には、平衡感覚を司る三半規管という小さな器官が両側の内耳に存在します。
両側の三半規管が感知した頭の動きや位置が神経を通じて脳幹へ伝えられ、「平衡感覚」が生まれます。
片側の三半規管やその信号を受け取る脳幹が機能しないと、世界がグルグルと回ってしまうような感覚に陥り、めまいやひどいふらつきが起こります。

臨床症状

首が片側に傾き、眼を見ると一定のリズムで揺れ、歩こうとするとバランスを崩したり一方向にグルグル回ってしまったりすることが非常に多く見られる症状です。
また、空中に抱え上げられるとパニックになったり暗い場所や寝起きに症状が悪化することが多いのも前庭疾患の特徴です。
症状は突然または徐々に起こることがあります。

両側の平衡感覚が異常を来たすと首の傾きや眼の揺れなどはそれほど認められませんが、特徴的な歩き方や首の動きをする事が多く、脚を上げたりジャンプする際にバランスを失ってフラつくことが多く見られます。

原因疾患

  1.  三半規管が障害を受ける疾患:内耳炎、ポリープ(猫)、耳の中の腫瘍、外傷、内耳に毒性のある薬物の投与、老犬に多い特発性急性前庭障害、(甲状腺機能低下症)
  2. 脳幹の疾患:脳腫瘍、脳炎、脳梗塞、メトロニダゾール中毒、(甲状腺機能低下症)、外傷

診断方法

病歴と神経学的検査がとても大切です。
三半規管に異常があるのか脳幹に異常があるのかを見極め、検査治療計画を決定します。
特に脳幹の病気の心配がある場合などにはMRI検査が大切になります。
CTスキャンは内耳炎など耳の病気を診断するためによく使われていますが、脳幹にも病気がある場合に見逃すことが少なくない上に中耳・内耳炎と脳幹内の疾患が併在する事があるため、脳幹の病気を心配している場合には推奨されません。
MRIを行うと内耳の病気も脳幹の病気も見ることができるので、多くの神経科医はMRIを好みます。
場合によっては特殊な電気生理学検査を行うこともあります。

前庭疾患1
前庭疾患2

 

治療方法

内耳炎やポリープは投薬や手術によって治療されることが多いですが、障害が重度な場合には治療をしても機能が完全には回復しないこともありますので早期の積極的な治療が大切です。
三半規管に毒性のある薬によって起こった前庭疾患は、障害を受けた三半規管は治りませんが徐々に慣れて症状が改善する事があります。
また、同時に聴覚が障害を受けることがあります。特発性急性前庭障害は原因不明の病気で急激にひどい症状が出ることが多いですが、2~3日後から徐々に改善し始め、数週間で回復することが多い病気です。

脳腫瘍、脳炎、脳梗塞などは原因の病気を治す事が大切ですが、脳幹は手術が非常に難しい部位なため、脳腫瘍の治療は一般的に非常に困難です。
メトロニダゾールは下痢などの治療によく使われる抗生物質ですが、長い期間飲んだりたくさん飲んだり肝機能が低下していて十分に代謝できない状態だと中毒を起こすことがあります。
通常は2~4日間の入院治療で回復します。